最近、石油タンカー銘柄が気になる
特にNAT、でも自分で調査・分析するのは大変
そんな方に向けて書きました。
この記事では、石油タンカー業界の動向と、注目の石油タンカー企業ノルディック・アメリカン・タンカーズ(NAT)について紹介します。
①なぜ今タンカー銘柄が注目されるのか?、②ノルディック・アメリカン・タンカーズ(NAT)についての順で説明します。
(①が不要な方は飛ばしていただいて、②からご覧ください)
ノルディック・アメリカン・タンカーズについて理解を深めるためにお役立ちになれば幸いです。
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私自身も調べる前は「石油タンカー業界」の知識が浅かったので、“基本的な知識を”分かりやすく”を主眼に記事⬇︎に基礎知識をまとめました。関連記事(石油・天然ガス、ばら積み船)についてもリンクを載せておきますので、ご興味ある方はぜひ下記リンク先をご覧ください。
石油産業・タンカーの基礎
数字で見る石油・天然ガス・タンカー30銘柄
なぜいま石油タンカー銘柄が注目されるのか?
※この章は、下記記事の一部抜粋ですので、既読の方は飛ばして「ノルディック・アメリカン・タンカーズ」へ進んでいただければと思います。基本的な用語が用語が分からない方は下記記事がご参考になるかと思います。ご興味あればご一読ください。
なぜいま石油タンカー銘柄が注目されているのでしょうか。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ロシアで多く生産されている穀物、石炭、石油などの価格が高騰していることはご存知のことと思います。
ウクライナ侵攻に対して各国がロシアに対する経済制裁を発表し、すでに木材・鉄鋼・石炭などの輸入禁止を決めた国々もありますが、今後、石油も制裁対象になる可能性があります。
このことと、石油タンカー株が注目されている理由の関係を順を追って説明します。
ロシアの原油の輸出量・輸出先
まずはロシアの原油・石油製品の輸出量と輸出先について確認したいと思います。
下図は各国の原油生産量のグラフ、下表は2019年のロシアの原油生産量とシェアを整理したものになります。このデータから2019年時点のロシアの原油生産量は世界の12.1%と、世界有数の石油生産国であることが分かります。
分類 | 国 | 生産量(1,000バレル/日) | シェア(%) |
---|---|---|---|
非OPEC | 米国 | 17,045 | 17.9% |
ロシア | 11,540 | 12.1% | |
カナダ | 5,651 | 5.9% | |
中国 | 3,836 | 4.0% | |
ブラジル | 2877 | 3.0% | |
Others | (・・・) | (・・・) | |
OPEC | サウジアラビア | 11,832 | 12.4% |
イラク | 4,779 | 5.0% | |
UAE | 3,998 | 4.2% | |
イラン | 3,535 | 3.7% | |
クウェート | 2,996 | 3.1% | |
ナイジェリア | 2109 | 2.2% | |
カタール | 1,883 | 2.0% | |
Others | (・・・) | (・・・) | |
Total | 95,192 |
次に、ロシアの原油・石油製品の輸出先を確認します。
下図の右側はロシアの輸出品目の割合と(2021年12月)を表しています。原油(Crude Petroleum)18.9%、石油精製品(Refined Petroleum)14.4%と、ロシアの輸出品に占める原油・石油製品の割合が高いことが分かります。
下図の左側はロシアの原油・石油製品の輸出先を表しています。ロシア原油・石油製品の輸出先の約半数は欧州であることが分かります。
ロシアの原油・石油製品の輸出量は世界有数で、輸出先の半数が欧州という現実の中で、今後もしEUが制裁のためにロシアの原油を輸入禁止にしたら何が起こるでしょうか。
まず従来のロシア→欧州の輸出量が大量なので、原油の供給が逼迫して原油・石油製品の価格は高騰・高止まりする可能性があります。
またロシア原油の代替として北米・南米・中東などからの原油・石油製品の輸入(石油タンカーで輸送)が必要になる可能性が高いです。
そうなれば、石油タンカー需要は旺盛になりますし、長距離輸送の受注も多く入るため石油タンカー株にとって追い風になると考えられます。
そのためEUがロシア産の原油を制裁対象とする否かが石油タンカー株にとって重要なポイントです。よって、4月下旬に開票されるフランス大統領選の結果はEUの意思決定を左右する可能性があるため注視する必要があります。
続けて原油価格やタンカー運賃の指標も確認しておきましょう。
原油価格
指標原油であるWTIとブレント原油の価格推移を確認します。
(指標原油については「石油の基礎」で後述します。分からない用語がでてきたら、「石油の基礎」を参照いただけると分かりやすいかと思います。
指標原油とは各地域で取引されてきた代表的な原油のことで、原油価格などを見る際の指標としてよく使われます。北米市場ではWTI(West Texas Intermediate:西テキサス中質)原油、欧州市場ではブレント原油、アジア市場ではドバイ原油が指標原油とされています。
現時点(日本時間2022年4月18日/早朝)でWTIは約108ドル、ブレント原油は約111.4ドル、となっており、3月初旬よりは低下しているものの、未だ高値圏にあり直近では再度上昇してきていることが分かります。
WTI
ブレント原油
タンカー運賃
タンカー運賃の算定は以下の考え方で決められます。
(タンカー運賃については「タンカーの基礎」で後述しています。分からない用語があれば、「タンカーの基礎」の部分を読んでいただければと思います。)
輸送される貨物の重量(Metric ton)、各航路に適用される基準運賃、および航海傭船契約で合意された運賃率によって計算され、その算出にはほとんど全世界的にワールドスケール(WS)による方法が採用される。例えば、WS150は基準表に記載されている運賃(WS Flat)の150%、WS50は同50%が運賃率となる。
出所:タンカーの基礎知識
タンカーのワールドスケールのチャートが”SIMPSONS“というサイトに載っていたので引用します。このチャートから、特に直近では Dirty(重油・潤滑油など)輸送用のSuezmaxの運賃(黄色)が上昇していることが分かります。
少し前の情報になりますがロイターの記事でも原油タンカーの運賃は世界的に上昇していることが取り上げられています。
原油タンカーの運賃が世界的に上昇している。ロシアからの供給が混乱することへの不安や、ロシアとウクライナの軍事衝突によるリスクプレミアム(料金の上乗せ)、燃料価格の上昇が背景にある。米国から欧州への燃料タンカーの運賃は24日、8%以上上昇し2020年5月以来の高水準を記録した。シンガポール市場の船舶用燃料油(バンカー)価格は6%高の1トン=555ドルと2019年以来の高値となった。
出所:原油タンカー運賃上昇、燃料高や戦争リスク受け(REUTERS:2022年2月25日)
もし欧州がロシア産原油の輸入禁止を決定すれば、さらにタンカー需要が盛り上がり、今後もタンカー運賃の上昇が続く可能性があります。これは石油タンカー銘柄にとって好材料になります。
他のタンカー運賃指数、Bltic Dirty Tanker Index(バルチック重油タンカー指数)、BCTI(同クリーンタンカー指数)の情報は Baltic Exchange やSEE Capital Markets などが参考になるかと思います。
(「なぜいま石油タンカー銘柄が注目されるのか?」は以上です。)
NAT まとめ
はじめにまとめです。
- ノルディック・アメリカン・タンカーズ(NAT)はバミューダ諸島に拠点を置くタンカー企業
- NATの保有タンカーは、1種類のタンカー(スエズマックス)で構成されており、全てのタンカー運賃は第三者との協定に基づきスポット市場で決定されるため、収益が需給に大きく左右される
- スエズマックスの運賃が上昇しており、同社のプレスリリースでは今後の見通しは強気
- TCE(傭船料)は急上昇(同社プレスリリースより)
- 21Q4:$10,100/Day ➡︎ 22Q1:$8870/Day ➡︎ 22Q2(5月):$20,000/Day (※参考値)
- 2021/12期 (通期) の売上高191百万ドル(YoY -46%)、営業利益率-44%
- ▶︎ 2021/12期(Q4)の売上高146百万ドル(YoY +234%)、営業利益率は -10%
- 2021/12期 (通期) の営業CFマージンは-23%
- 2021/12期(通期)の自己資本比率は59%、流動比率158%、固定比率149%、固定長期適合比率95%
- 22年の予想1株当たり配当は$0.04、予想配当利回りは1.4%(2022/05/19時点)
- 現在の株価は2.80ドル、PER(予)N/A、PBR(mrq)1.06倍(2022/5/19時点)
NATの収益は、タンカー(スエズマックス)の運賃によって大きく変動するので、タンカー(スエズマックス)の需給状況や運賃指標を注視しながら投資検討をしていきたいと思います。
また、コストに関係する原油価格、船舶燃料価格も併せて把握しておく必要があると思います。
NATのプレスリリース(5/31)によると、「22Q1のTCEは$8,870ドル/Day」、「22Q2/5月末現在、フリートの70%がTCE$20,000/Dayで予約」と記載があり、今後の好業績が期待できそうですが、TCEには多くの予想が影響し変動も大きいため、タンカー需要とTCEを注視しながら投資検討をする必要があると思います。
ウクライナ情勢も緊迫化する中で、今後の展開は予想しづらいですが、自身で情報を精査・判断して投資検討をしていくことが大切です。本記事が石油タンカーの動向と、NATについて理解するための一助になっていれば幸いです。
(※投資は全て自己責任です。ご自身で情報を精査したうえで、ご自身の判断と責任でお願いします。)
関連ニュース
NAT 会社概要
基本情報
ノルディック・アメリカン・タンカーズ(NAT)はバミューダ諸島に拠点を置くタンカー企業です。
NATのタンカーは、一種類のスエズマックスで構成されており、全てのタンカー運賃は第三者との協定に基づきスポット市場で決定されるため、収益が需給に大きく左右されるのが特徴です。
保有タンカー
タンカーは輸送品の種類、サイズ(小型〜大型)で様々な種類がありますが、NATの保有タンカーはSuezmax(スエズマックス)の1種類で構成されています。
タンカーの種類 | 保有数量 |
---|---|
VLCC | – |
Suezmax | 22 |
Aframax | – |
Panamax | – |
LR2 | – |
LR1 | – |
MR / Handy | – |
NATの保有タンカーの詳細は下記リンク先から確認できます。
業績・財務状況
続いて、業績や財務状況を確認していきます(数値は下記リンク先のNATのIR資料を基にしています。)
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売上・営業利益(年次)
年次の売上・営業利益は以下の通りで、2021/12期 (通期) の売上高191百万ドル(YoY -46%)、営業利益率-44%と、売上・利益とも低迷しています。
売上・営業利益(四半期)
四半期の売上・営業利益は以下の通りで、2021/12期(Q4)の2021/12期(Q4)の売上高146百万ドル(YoY +234%)、営業利益率は -10%と、売上は急拡大しているものの利益は低調です。
今後の見通し(NAT プレスリリース)
今後の見通しはどうなのでしょうか?
先日(4/13)、NAT からプレスリリースが出ていたので確認します(原文は下記リンクから確認できます。参考に日本語訳も添付しましたが、 ご自身で原文を確認することをお薦めします)。
NATの見立てとしては、スエズマックスの運賃が向上しており、今後も上昇基調は続くという予想のようです。
あくまで同社からのコメントなので、鵜呑みにする訳ではありませんが、同社としては今後の見通しを強気に見ていることが分かります。
参考)日本語訳
ノルディック・アメリカン・タンカーズ・リミテッド(NYSE: NAT) – 当社の100万バレル級スエズマックスの運賃が上昇中
現在、市場は明らかに好転しています。最近、3隻の船を1日あたり4万ドルから5万5千ドルの料金で、期間は30日から70日まで固定しました。当社の船隊の大部分は、ソートターム・スポット市場で運航されています。
出所:NAT Press release April.13, 2022
現在のレートで計算すると、NATは1隻あたり8,000米ドルの日当を上回る、年換算で2億米ドル以上の利益を生み出すことになります。
このシナリオでは、NATはこれまでと同じように1年か2年で無借金になることができます。
配当は97四半期連続で実施しており、今後もNATの優先事項として継続します。
投資家の皆様に適切な情報を提供することは、私たちの義務です。
今後も上昇基調は続くと見ています。
定期傭船料(TCE)推移(※2022/5/31更新)
次に実際のTCE(定期傭船料)について確認していきます。
TCEの推移を NAT Quarterly Report の数値を基にグラフを作成したものが以下になります。
(※22Q2月の値は、NAT Quarterly Report の22年5月末時点でのフリートの70%がTCE $20,000/Dayで予約されているとの記載を基にしており、参考としてご覧ください)
2020年前半はコロナの感染拡大で、世界的に石油需要が急減し、世界中の余剰原油の貯蔵が限界に達し、石油タンカーは海洋貯蔵施設としての需要が高まったため、TCEが高騰しています。
21Q4まではTCEが低調でしたが、下記の NATの Press Release によると22年4月は、良いケースではTCEは約$50,000/Dayとなる可能性があり急上昇していることが分かります。
情報追加(2022/05/31)
その後の2022年5月31日のNAT Quarterly Report によると、22Q1は$8,870/Day、22Q1は今までのところ70%のフリートが$20,000/Dayで予約されているようです
THE AVERAGE TCE FOR OUR ACTIVE FLEET DURING THE FIRST QUARTER OF 2022 CAME IN AT $8,870 PER DAY PER SHIP. SO FAR IN THE SECOND QUARTER OF 2022, 70% OF OUR FLEET IS BOOKED AT AN AVERAGE TCE OF ABOUT $20,000 PER DAY PER VESSEL (+ 125%).
THIS IS THE BEST ILLUSTRATION POSSIBLE OF AN ADVANTAGEOUS MARKET FOR OUR SUEZMAX TANKERS.
出所:NAT Quarterly Report (2022/05/31)より抜粋
2022 年第 1 四半期の当社現役船隊の平均 TCE は、日額 8,870 ドルでした。で、1隻あたり1日あたり8,870ドルでした。2022年第2四半期現在、当社フリートの70%が、1隻あたり日額約20,000ドル(125%増)の平均TCEで予約されています。
これは、当社のスエズマックスタンカーにとって有利な市況を示す最良の例です。
出所:NAT Quarterly Report (2022/05/31)の抜粋を日本語訳
キャッシュフロー・営業CFマージン
2021/12期 (通期) の営業CFマージンは-23%と低迷していますが、好業績時は営業CFマージンが30%超であり、収益の変動が大きいことが分かります。
バランスシート(安全性)
2021/12期(通期)の自己資本比率は59%、流動比率158%、固定比率149%、固定長期適合比率95%となっており、財務的な安全性は問題なさそうです。
配当
22年の予想1株当たり配当は$0.04、予想配当利回りは1.4%となっています(2022/05/19時点)。
株価
現在の株価は2.80ドル、PER(予)N/A、PBR(mrq)1.06倍(2022/5/19時点)となっています。
NATの株価・業績・TCEの関係が分かりやすいように、各チャートを並べてみると以下のようになります。
業績・株価ともに低迷していますが、もしTCEの高騰が続くようなら、2020年前半のような好業績が期待できそうなので、個人的には面白い銘柄かと思います(TCEには多くの要因が絡み変動が大きいため注意が必要です)。
出所:Trading View
<リアルタイムチャートはこちら>
NAT まとめ(再掲)
最後にまとめ(再掲)です。
- ノルディック・アメリカン・タンカーズ(NAT)はバミューダ諸島に拠点を置くタンカー企業
- NATの保有タンカーは、1種類のタンカー(スエズマックス)で構成されており、全てのタンカー運賃は第三者との協定に基づきスポット市場で決定されるため、収益が需給に大きく左右される
- スエズマックスの運賃が上昇しており、同社のプレスリリースでは今後の見通しは強気
- TCE(傭船料)は急上昇(同社プレスリリースより)
- 21Q4:$10,100/Day ➡︎ 22Q1:$8870/Day ➡︎ 22Q2(5月):$20,000/Day (※参考値)
- 2021/12期 (通期) の売上高191百万ドル(YoY -46%)、営業利益率-44%
- ▶︎ 2021/12期(Q4)の売上高146百万ドル(YoY +234%)、営業利益率は -10%
- 2021/12期 (通期) の営業CFマージンは-23%
- 2021/12期(通期)の自己資本比率は59%、流動比率158%、固定比率149%、固定長期適合比率95%
- 22年の予想1株当たり配当は$0.04、予想配当利回りは1.4%(2022/05/19時点)
- 現在の株価は2.80ドル、PER(予)N/A、PBR(mrq)1.06倍(2022/5/19時点)
NATの収益は、タンカー(スエズマックス)の運賃によって大きく変動するので、タンカー(スエズマックス)の需給状況や運賃指標を注視しながら投資検討をしていきたいと思います。
また、コストに関係する原油価格、船舶燃料価格も併せて把握しておく必要があると思います。
NATのプレスリリース(5/31)によると、「22Q1のTCEは$8,870ドル/Day」、「22Q2/5月末現在、フリートの70%がTCE$20,000/Dayで予約」と記載があり、今後の好業績が期待できそうですが、TCEには多くの予想が影響し変動も大きいため、タンカー需要とTCEを注視しながら投資検討をする必要があると思います。
ウクライナ情勢も緊迫化する中で、今後の展開は予想しづらいですが、自身で情報を精査・判断して投資検討をしていくことが大切です。本記事が石油タンカーの動向と、NATについて理解するための一助になっていれば幸いです。
(※投資は全て自己責任です。ご自身で情報を精査したうえで、ご自身の判断と責任でお願いします。)
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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育児🧑🍼をしながらということもあり、石油タンカーとNATの調査・記事作成に相応の時間を要しました💦💦 この記事が「役に立った!」という方は、Twitter・noteで「いいね」「リツイート」、ブログ村↓を「クリック」して応援していただければ嬉しいです。
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